2012年5月14日月曜日

フォーゲルのブクステフーデ:オルガン作品全集

ブクステフーデのオルガン作品には決定盤がなかなかない、
という声をときどき耳にしますが、私はこれが文句なしの
決定盤だと思うものがあります。
ハラルド・フォーゲルによる全集です。

ブクステフーデ:オルガン作品全集: ハラルド・フォーゲル(Org.)

(Amazon) (HMV)


かつて非常にゆったりとすすめられた全集のBOX化。

フォーゲルは、録音は非常に遅いですが、演奏は
いつも非常によいのです。この全集の完成が
遅れに遅れた理由を、最後の第7集で、
ハンブルクの聖ヤコビ教会のシュニットガーオルガン
の修復完了を待っていたからだと述べていました。

全集を通じて、各地の歴史的オルガンを
使い分けているのも聴き所。
いくつかの作品では元調と移調で2回収録されていますが、
これはミーントーンのオルガンでは移調して演奏しているためです。

個々の作品の演奏を詳しく述べることはできませんが、
一例としてト短調のPraeludium(BuxWV148)を挙げてみます。
3曲あるト短調のPraeludiumのなかでもとりわけ
壮麗な作品ですが、フォーゲルの各部分の性格付けが
とりわけ見事な例でもあります。
propositioでの見事なStylus phantasticus の
飛翔感、続く最初のconfutatio での特徴的な同一音反復の
美しい均整の取れたリズム、そしてなにより、
conclusio での荘厳なオスティナート。
この2拍子によるシャコンヌはとりわけ低音が
魅力的な音色で、聖ヤコビ教会のシュニットガーオルガンの
修復を待っていた、というのは
あながち言い訳でもないな、と当時思ったものです。

この曲以外でも、総じてフォーゲルのストップ選択は
コロコロ変化をさせたりするものではなく、
歴史的奏法にそったもので、なおかつ、
その選択自体が聴きものといってよいと思います。
ストップ選択の趣味のよさはフォーゲルの
美点のひとつだと思うのです。
同じくブクステフーデの全集を出したフォクルールは、
ストップ選択に関しての助言をフォーゲルから得たことを、
ブックレットでスペシャルサンクス的に明記していたくらいです。


2007年はブクステフーデ没後300年ということで
さまざまなディスクが出たり企画されましたが、
こうした名盤がBOX化されたというのも、
こうした記念イヤーの恩恵でしょう。
多角的にブクステフーデのオルガン作品を
堪能できるBOXで、他の演奏を持っていても
買って後悔しないと思います。

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