2012年2月12日日曜日

オペラに対してのサブカルチャー:バレエ

私は小学生の時から西洋クラシックを聴いてきたのですが、
その時から変わらず好きな作曲家というのがあります。

チャイコフスキーなんです、実は。
私を知る人からは「?」という反応を必ずいただきます(苦笑)。
なにしろ、ロマン派が苦手な私が、ロマン派の権化のような存在の中の一人を
こんなにも愛しているわけですから。

さて、最近私はロッシーニ、メルカダンテ、ドニゼッティあたりの
いままで聴いてこなかったオペラをまとめて毎日聴いていたので、
口直しといいますか、他のものを聴きたい気分になったわけです。
そこでチャイコフスキーというわけですが、
彼は自分の事を変わることなく 「オペラ作曲家」として自負・自認していたということです。
客観的にも、「マンフレッド交響曲」を含めた完成した交響曲の数より
実は完成したオペラの方が数が多いんですよね。
「エフゲーニー・オネーギン」ばかり有名というのも残念な話です。
バレエの話に入る前に彼のオペラも少し見てみましょう

Tchaikovsky Edition
実は、こまごま分売のオペラを集めるより効果的ということもあり、
とりあえずこれを挙げてみます。Brilliant Classics お得意の超廉価BOXです。
しかし、これ、侮れないんですよ、内容が。
交響曲なんてどうせ他の音源があるし、とかあまり期待していなかったのですが、
ロジェストヴェンスキー指揮の後期3大交響曲や、
フェドセーエフ指揮の第1番、第3番なんて、
この曲で不可能とも思えるユニークな解釈を聞かせてくれます。

オペラに関しましては、私は地方劇場の演奏って結構好きなのですが、
このBOXでいえば、「エフゲーニー・オネーギン」と「イオランタ」がそうですね。
いかに地元に密着した活動をしているか、できればライブで聴きたかったのですが、
セッションですが、なかなか興味深い演奏です。

ほかのオペラはスヴェトラーノフ指揮の2作以外は歴史的録音です。
歌手をオンマイクにしてのミキシングですが、これが録音の古さより
演奏の素晴らしさをまず感じるもので、本当にお得です。

私はチャイコフスキーのマイナーオペラの中では
「オルレアンの少女」と「チャロデイカ」が好きなのですが、
これはBOX以外の演奏も紹介しておきましょう。

・「チャロデイカ」
Enchantress


「Enchantress」というのは英訳ですね、「Чародейка」が原題で、
「男を惑わす魔性の女(魔女)」くらいの意味です。
カットなしだと4時間近い大作ですが、チャイコフスキーらしくサービス満点で
最後まで飽きることはありません。ただしストーリーもまた彼らしく
どこにも救いのない陰惨なものです。
このディスクはMelodiyaの音源で、上記で紹介した最近復刻されて
ちょっと話題になったカイキンの指揮のものとの聴き比べにはもってこいです。
リマスターが丁寧で、とても聴きやすくなっています。
ロシア的なメロディーが多くあり、陰惨なストーリーの割には
ラスト以外はそうストレスを感じなくて済むのは、4時間という長丁場、ありがたいですね。

・「オルレアンの少女」
ありがたいことに、日本語字幕付き映像がリリースされています。


ジャンヌ・ダルクはさすがにいろいろ音楽作品にも題材になるのですが、
この作品でチャイコフスキーはフランス・グランド・オペラのスタイルを意識的に取り入れて、
バレエもとりいれているのですね。
いかに当時フランス・オペラが無視できない存在だったかわかります。

さて、ここでバレエの話に入るわけです。毎度毎度前置きが長くて済みません。
知っている方は知っている有名な事実(?)ですが、ロシアの上流階級は
フランス文化の影響下にありました。
宮廷ではフランス語もよく使われていたくらいですし、
19世紀のロシアの小説には、フランス語の引用が多いこともご存じの方は多いでしょう。
ただ、劇場だけはイタリア・オペラの牙城で、チャイコフスキーが
「オルレアンの少女」で見せたフランスへの接近というのはその意味でも興味深いのです。

先にチャイ子フスキー彼自身は「オペラ作曲家」としての自認が終生変わらずあった、と
述べましたが、そんな彼がバレエに向かったのはなぜなのでしょうか?

彼は友人の音楽評論家、ヘルマン・ラロッシュに興味深い手紙を書いています。
そこで彼は「オペラの現実的な制約を逃れた幻想的な音楽劇」の可能性を探りたい、
と述べています。これ、なにかを想起させませんか?
例えば現代日本において、実写ドラマにできないことを、一段低いサブカルチャーとされている
アニメーションにおいて表現する、そんな構図に似ていると私は思うのです。

チャイコフスキーの先駆者といえばドリーブがいます。「コッペリア」と「シルヴィア」は
チャイコフスキーもリスペクトしていたそうですね。
いわば、オペラの一部分であったバレエを一つのジャンルとして打ち立てたのです。
そして、その芸術的完成者は疑うことなく、チャイコフスキーでしょう。
「白鳥の湖」におけるある種の悲劇性とドラマは、まだオペラに負けないジャンルを
打ち立てるんだ、という気負いとも読み取れます。
そして「眠れる森の美女」において、おそらく近代バレエの礎が築かれた。
「くるみ割り人形」にはもはやストーリーらしいストーリーはありません。
こうしてみていくと、チャイコフスキーが単に3つのバレエを書いただけでなく、
さまざまな可能性を模索していたことがはっきりとわかると思います。

そして、現代においては音盤の問題がまだ付きまといます。
たとえば「白鳥の湖」は、実際は3枚にしないと完全全曲は収録不可能です。

偉大な例外がプレヴィンとロンドン響による2枚組です。
いまさら語りつくされた演奏をくどくど語りませんが、
SACD化されますのでそれを紹介しておきましょう。
チャイコフスキー:白鳥の湖
問題は、海外でBOX化されているプレヴィンの3大バレエの廉価BOX,
「眠れる森の美女」を2枚に収める関係でいくつかカットしていることです。
その関係もあるのでしょう、日本盤としては、3大バレエのうち、この作品だけ
現役版がありません。
多少高額になってもいいので、カットなし3枚組でCD化される日が来ることを祈ります。

0 件のコメント:

コメントを投稿