学校の音楽教師が大体においてまっとうに演奏できないのですから、
これはなかなか難しい問題なのです。
みなさんご存じの「さくら」は、幕末に箏の手ほどき曲として作られたもので、
その意味では、近世邦楽の音階である、いわゆる都節音階に対しては、
素晴らしい教材として現在でも使えると思います。
さて、邦楽といってもいろいろあるわけですが、雅楽は厳密には「邦楽」には入らない
そうですが、教育としてはやっておくべきものだと思います。
しかし手ほどき曲が問題になってくるのですね。
雅楽の手ほどき曲というと「五常楽」が使われることが多いようです。
実際にこういうDVDも出ていて、独学できるようになっています。
篳篥・笙・龍笛・五常楽にチャレンジ 雅楽入門 [DVD]
しかしこれは近世邦楽でいえば、例えば地歌ならいきなり「黒髪」から入るようなものです。
全般的に邦楽には極端に手ほどき曲が不足しているのです。
最初からコンサートピースを習うことができるのは、良いことでもありますが、
初修の曲だからとおろそかに考える人も出てくるのが問題です。
さて、「君が代」は皆さんもご存知ですね。
いろいろ思想的なことはとりあえずおいておいて、旋律としてこれは、
壱越律旋の手ほどきとしてうってつけなのです。
君が代演奏拒否の教師が理由として、
「雅楽音階の曲を西洋和声で平均律のピアノでは演奏したくない」ということを挙げていて、
これは確かに一理あるんですよ。
そこで、歌詞の問題もクリアする方法、また邦楽器教育の一つの方法として、
君が代を雅楽器で演奏する教育を行うというのはどうかと思うのです。
おそらく、雅楽音階においての手ほどきとして、近世邦楽音階における「さくら」と同じくらい
優れた教材であると私は考えます。
皆さん歌詞の事で議論しているのでしょう?よくわかりませんが。
でも旋律としてこんなすばらしい教材を使わないのはもったいない。
唄うのが嫌な教師・生徒は雅楽器を演奏すればいい。
割と真面目な提案です。
その後に「五常楽」や「越天楽」に進めば、自然に上達することでしょう。
雅楽特選
ところで、越天楽を題材に西洋音楽の話もしておきましょう。
まず、「越天楽」は「渡物」といって、3つの調子のものが存在します。
雅楽「越天楽」三調
このCDは非常に素晴らしい音盤で、その3つの調子(平調・盤渉調・黄鐘調)の
「越天楽」がおさめられているだけでなく、平調「越天楽」では「残楽(のこりがく)」という
特殊な演奏形態で演奏されています。
さらにお得なことに、「五常楽」も収められているのです。
「雅楽を何か聴いてみたい」という方には、まずこれをお勧めしたいです。
さて、私が個人的に峰崎勾当に並ぶ日本の大作曲家と考えているのは、
松平頼則(まつだいらよりつね)氏です。
「松平」という姓からわかるとおり、そういう家柄の人で、
音列による西洋作曲技法と、雅楽の要素を魔法のように融合させた
とんでもない技法によって、多くの作品を残しています。
「越天楽」と関係するのはこちら。
松平頼則:ピアノとオーケストラのための主題と変奏/ダンス・サクレとダンス・フィナル/左舞/右舞
この「主題と変奏」はカラヤンが指揮した唯一の日本人作品としても有名ですが、
その主題は「越天楽」、しかも普段よく聞く平調のものではなく、盤渉調のものです。
「越天楽」はもともと盤渉調だったといわれ、雅楽に関してとんでもない知識をお持ちだった
松平頼則氏のこと、これは意図的なものでしょう。
この作品はまだ氏の本当に初期の作品で、雅楽を解体し、音列と融合して
再構築するのちの作風はまだ出ていませんが、それだけに初めて聴くにはなじみやすいでしょう。
松平頼則作品集
ここに収められている「春鴬囀」 はむろん、雅楽四大曲の一つのことです。
雅楽「春鶯囀(しゅんのうでん)
峰崎勾当以来の大作曲家ということは、西洋音楽作曲家としては間違いなく
日本最大の作曲家でありますから、氏の音楽を正当に評価するためにも、
雅楽の教育というのは大切ではないかと思います。
追記:こちらに新しい記事もあります
野平一郎による松平頼則:ピアノ作品選集
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