Brilliant Classics レーベルにおいて、Contrasto Armonico演奏による、
通奏低音のみの伴奏のカンタータを含めた
「完全なカンタータ全集」が始動しています。
すでに第4集までリリースされ、お耳にされた方も多いと思います。
・Vol.1 (Amazon) (HMV)
・Vol.2 (Amazon) (HMV)
・Vol.3 (Amazon) (HMV)
・Vol.4 (Amazon) (HMV)
さて、この全集、2つの点で大きな意義があります。
1.上述のとおり、通奏低音のみの伴奏のカンタータも全て含むこと
2.異なるピッチの共存による演奏であること、
また、第4集まではローマピッチ(392Hz)ですが、
今後は作曲場所、初演場所などを考慮してピッチも配慮するとのこと
1はとりあえずそれ以上付け加えることはないのですが、
通奏低音のみのカンタータの録音はあまりにも少なく、
イコール「あまりおもしろくない」と変な先入観がありました。
しかし、とんでもないことです。
第1集には通奏低音のみの伴奏のカンタータが
3曲入っていますが、とても魅力的な作品です。
そして重要なのは2の方なのですが、
当時ローマでのピッチは、上述のとおり
392Hzと、ヴェルサイユなみに低いピッチでした。
そしてややこしい事情もあります。
当時ローマの教会は管楽器を禁じていたため、
ローマ独自の管楽器奏者・製作者はいなかったそうなのです。
貴族が自分たちの楽しみのための
セレナータやカンタータなどで管楽器入りの作品を演奏するとき、
ヴェネツィア出身の奏者を雇っていたそうなのですが、
ヴェネツィアのピッチは皆さんご存知のとおり
通常のピッチより高い440 Hzでした。
つまり、管楽器が入るローマの作品においては、
バッハの教会カンタータにおける
コアトーンとカンマートーンの共存のような問題が発生していたわけです。
驚くべきことに、この問題は今まで提起されたことはなかったのです。
このあたりがバッハ研究とヘンデル研究の人数の差なのでしょうかね…。
というわけで、この第1集においては、弦楽器および歌手はローマピッチ、
管楽器はヴェネツィアピッチで演奏されています。
具体的に言うと1音の差があることになります。
さて、これがどのように影響してくるかが問題です。
でないと単なる学者の自己満足です。
この共存を当てはめた演奏は
第1集では「Da quel giorno fatale (Delirio Amoroso)」にて聴けます。
まず、Introduzioneでさっそく影響が出ます。
現代譜においては嬰へ音のロングトーンがオーボエにあるのですが、
容易に想像がつくとおり、バロックオーボエでは
この音は朗々となる音ではありません。
しかし、上述のようなピッチ共存で演奏すると
なんのことはないホ音のロングトーンになります。
ヘンデルはイギリスでオペラを書くときには、
キャストの得意な音域を把握し、
特に輝かしく歌える音を主音または属音にしたアリアを
見せ場に持ってくるよう配慮する、
極めて演奏効果には慎重な人でした。
とすると、このピッチ共存は極めて歴史的に忠実であるだけでなく、
説得力があります。
Brilliant Classics という廉価レーベル故、
忌避している方も大勢いらっしゃるかと思いますが、
演奏はとてもしっかりしています。
将来的にはBOXになるのでしょうが、
1枚1枚追っていく価値のある全集だと思います。
あと付け加えますと、Brilliant Classics は困ったことに
しばしば歌詞は原語のみ記載という
私のような語学音痴泣かせなことをするのですが、
この全集にはしっかり伊英対訳が付いています。
その点でもご安心ください。
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