2014年1月2日木曜日

レットベリによるスクリャービン:ピアノ作品全集 その2

みなさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

さて、年末にご紹介した、レットベリの「作品番号付き」の
スクリャービンピアノ作品に限定したBOX  のリリースから5年。
昨年末にレットベリは「作品番号なし」のピアノ作品をまとめて録音し、
リリースしました。それがこちらです。



A.スクリャービン[1872-1915]&J.スクリャービン[1908-1919]:遺作集

(Amazon) (HMV

まず冒頭で、レットベリはなぜ5年前の「全集」を
「作品番号付き」に限定したか、理由を述べています。
『作曲者が意図したとおりに世に出したかった』という簡単な理由でした。
彼女はその録音に際し、演奏会でもスクリャービンを弾き続けたそうです。
彼女の当時の作曲家へのリスペクトだったのですね。

しかし、その後彼女は、自分でも驚きだったと語っていますが、
「作品番号なし」の作品も、非常に優れており価値のあるものだと思うに至ったようです。
そして、5年前の「全集」録音時と同様、演奏会で何度も演奏し、
その末にこれらの作品も世に出すことを決意した、ということです。

スクリャービンの作品番号なしの作品の録音自体は、少ないとはいえ
皆無ではありません。何枚か集めれば一通り聴けるようなくらいには音盤はあります。
しかし、このレットベリの新譜のように、それだけに焦点を合わせたものは貴重です。
さらには、このCDには、世界初録音が3曲あります。
それには理由があり、1997年に初めて校訂されたものだからです。
それらは、「スケルツォ 変ホ長調(1886)」、「スケルツォ 変イ長調(1886)」、
「ピアノのための小品 変ロ短調(1887)」です。
従来の作品表には、確かに「スケルツォ」は欠けています。
このジャンルにもスクリャービンは作品を残していたのですね。

演奏は、やはり冴えた技巧によるもので、ひんやりとした抒情が心地よいです。
ベタベタとしたところがないのは彼女の美点だと思います。
そして、こうやって初期作品をまとめて聴くことにより、
スクリャービンがいかに急速に作風を変えたり、書法を充実させていったか、
はっきりと認識することができます。
これらの作品は、単独で考えた場合、決して無価値なものではありませんが、
作品を出版するようになった頃には、彼自身にとっては未熟なものに思えたのでしょう。

ですが、たとえば 「ソナタ 変ホ短調(1887-1889)」の第1楽章は、後年改訂し、
作品4の「アレグロ・アッパショナート」 として出版していますし、
スクリャービン自身も決して無価値とまで考えていたわけではないと思います。

そして、ホロビッツの得意レパートリーの一つとして有名な、
あるいはスクリャービン自身の自作自演録音でも有名な、
嬰ニ短調練習曲(作品8-12)の異稿も収められています。
こちらも近年かなり取り上げられるようになってきていますので、
お聴きになったことがある方も多いと思います。
これは出版の際、諸説あって定かではありませんが
(出版者のベリャーエフ自身とライナーにはありますが、リムスキー=コルサコフとの説もあり)、
とにかく他者に意見を聞き、最終的に出版したのが現行版で、
この異稿はその際選ばれなかった方です。
私の考えるに、これは劣っているというより、現行版の方が
"Patetico"(悲愴に)という発想記号により合致したほの暗い曲調だからではないかと。
異稿の方は、結構長調に傾く場面があって、意外に救いがある感じです。

さらにはこのCDにはスクリャービンの最年少の息子、ユリアンの
4曲の前奏曲も収められています。
ユリアンは不慮の事故により11歳で水死してしまったのですが、
ここに収められている彼の作品は驚くほど父の影響が見え、早熟です。
レットベリは「スクリャービン自身の未発表作品と言われてもわからない」とまで
述べていますが、それはさすがにほめすぎです。
ただし、10歳になるかならないかの少年の作品として考えると、やはり驚くほかなく、
惜しい才能が失われたものだ、と感じざるを得ません。
ユリアンの作品はめったに録音されませんし、こういう形で録音されるのも面白いですね。

それにしてもレットベリ、とうとうスクリャービンの独奏ピアノ作品は全て録音しましたね。
かつてアシュケナージがショパンの作品全集を完成させたとき、「スクリャービンは?」
と尋ねられ、「スクリャービンに関しては十分に義務を果たしたつもりだ」と答えた時と、
時代もずいぶん変わったこともありますし、レットベリ自身がここまで献身的に
スクリャービン作品に情熱を注いだこともあるでしょう。
スクリャービン愛好家にとっては本当にありがたいことです。

0 件のコメント:

コメントを投稿